2010年9月9日木曜日

タクシー運転手の一生忘れない出来事

英語のミキ先生からこの話を聞きました。

20年前、生計をたてるためタクシーの運転手を
していた男性がいました。

彼が一生忘れる事が出来ない出来事のお話です。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

ある日、真夜中、一階にたった一つの電気しかついていない
暗いビルへ乗客を迎えにやってきました。

このような状況では、大体運転手は
「ぷっぷ~」とクラクションを数回ならし、
1分ほど待って(出てこなければ)走り去るのが普通です。

しかし、今まで多くの貧困層の人々が、
唯一の交通手段としてタクシーを利用しているのを
見て知っていたので、

私は、なんらかの危険性を感知しない限り、
だいたいドアまで行って到着したことを知らせます。

タクシーに乗る予定にしている人が、
もしかしたらアシスト(ヘルプ)が必要かもしれないとも
思っていたからです。

そして、その夜も、ドアをノックしました。
「すこし待ってください」と弱々しい年老いた声が聞こえました。

床の上を何かひきずる音が聞こえました。
しばらくしてドアが開くと、
80歳代ぐらいの小柄な女性が私の前に立っていました。

模様のあるドレスを着て、頭にかぶった淵なし帽子
(ピルボックス・ハット)には薄いベールがついていました。
その姿は、まるで1940年代の映画に出てくるスターのようでした。

そして彼女の横には、小さなナイロンのスーツケースが。
そして、アパートは、まるで何年もの間誰も住んでいなかった
かのように見えました。

家具はすべてシーツで覆われていて、時計はどこにもなく、
カウンターには家庭用品は何もありませんでした。
部屋の角には、写真やグラス食器が入った段ボール箱が一つ。

「車までバッグを運んでもらえませんか?」彼女は言いました。
私はスーツケースをタクシーまで運び、
女性に手をかそうと戻ってきました。

彼女は、私の腕を取り、ゆっくりとタクシーに向かって歩き始めました。

「ご親切に、ありがとう」という言葉を繰り返しながら。

「たいしたことではないですよ。

母親がここにいたら、このように扱ってほしいと思うんです。
だから、そのように、私自身も乗客する人に手を貸したいだけなんです。」

「あなたは本当に優しい方ね」と彼女は言いました。

タクシーにたどり着くと、彼女は住所が書かれた紙を手渡して、
「少し、街中を走ってもらっていいかしら?」

僕は「近道にはなりませんよ」と急いで答えました。
彼女は「いいのよ。構わないの。急いでないから。
これからホスピスにいくところなのよ。」

私は、車のミラー越しに、彼女の目がキラっと輝くのが見えました。

涙でした。

「私にはもう誰も家族が残っていないの。
お医者さんがね、私の命はもうそんなに長くないって」。

私は、静かに「料金のメーター」を止めて聞きました。
「どの道を通りたいですか?」
その後2時間、町中をドライブしました。

彼女が、かつてエレベーターのオペレーターとして
働いていたビルの近くや、
結婚当初、ご主人と一緒に住んでいた近所をドライブしました。

家具屋の前につくと、以前ここには、
彼女がまだ幼いころ踊りにいったダンス教室があったと教えてくれました。

時折、ある特定のビルや街角で、
スピードを少し落として欲しいと頼まれ、
すると、彼女は暗闇の中、何も言わずに座って
思い出の場所を見つめていました。

そして、太陽が昇り始めた頃、彼女は突然言いました。
「疲れたわ。さあ、行きましょう」。

静寂の中、私達は、メモに書かれた住所へと向かいました。
そのビルは低く、まるで小さな療養所のようで、
屋根がついた玄関の下にドライブウエイが続いていました。

車を止めた瞬間に、2人のスタッフが車に走りよってきました。
どちらも彼女のことを非常に気遣っていて、
彼女の動きを注意深く見守っていました。
彼女が来ることを事前に知っていたのでしょう。

私はトランクをあけて、小さなスーツケースを取り出し
玄関口へと運びました。
その時には、彼女は、すでに車椅子にのっていました。

「いくらかしら?」彼女は財布を捜しながら尋ねると、

「いいえ。何もいりません」。

「でもあなた、生計をたてているんでしょう」

「また他の人を乗せますから。」私は答えました。

私は何も考えず、彼女をそっと抱きしめました。
彼女も私をそっと抱きしめてくれました。

「年老いた私に、短かったけど、とっても嬉しい喜びに
満ちた時間をあなたはくれたのよ。ありがとうね。」

私は、彼女の手を握りしめ、朝焼けの光がうっすら広がり始めた中
タクシーへと戻りました。

私の背後でドアが閉まる音が聞こえました。

その音は、ある人生(命)が終わっていく音でした。

その日、私はだれも人を乗せませんでした。
何の目的もなく、思いの中にただ車を走らせていました。
その日はずっと誰とも話すことができなかったのです。

もしあの女性が、怒りに満ちたタクシーの運転手にあたっていたら、
もしシフトがもうすぐ終わる頃で、
家に早く帰りたくてイライラした運転手にあたっていたら。
もしクラクションを一回しか鳴らさず、運転手が走り去っていたら?

振り返ってみると、私は人生で大切なことは何もしていないと思います。
誰もが、人生は素晴らしい瞬間を中心に展開していくと
状況的に信じ込んでいます。

しかし、素晴らしい瞬間は、こうやって私たちが無意識の時にやってくるのです。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

この運転手の方は
別に他の運転手とは違う特別な人というわけではありません。

たった一つの優しい行為が
乗客であった年老いた女性に、最後の美しい思い出を作りました。

メーターをとめた彼は、
その時には、お金の事を考えず、
その女性が「もう命が短いことを知り」
自分の時間をさいて、町中を2時間ドライブしました。

そこには「人に仕える」本当の
仕事をした彼の姿があったように思います。

ふっとした瞬間に「自分がどう動けるか」
それは一時的なものではなく
日常自分がどのように生きているかが、そのようなときに
現れるのかもしれません。

人の行動は感情で動かされます。
もちろん感情にはいろいろありますが

一番強い感情は、「誰かに喜んでもらう」
また「喜んでもらいたい」願望なのではないでしょうか。

そこには共感があり、いたわりがあり、優しさがあります。
無条件に与えられたときにこそ、そのパワーはいっそう
強くなるのでしょうね。

だからこそ、そのような瞬間に、
人は動き、人は動かされるのかな。。。

大きいことをする必要もなく
自分がいきなり偉い人になる必要もなく

ただ相手が同じ人間であることを認識すること。

「心から生まれるサービス」は
もしかしたら他の人がみたら小さいことかもしれない状態で、
美しくラッピング(包装)されて生まれてくるような気がします。

そんなストーリーでした。

1 コメント:

ミツヤ さんのコメント...

この記事を読み、おばあさんの心底喜んだ表情が浮かびました。

お客さまにに喜んで頂ける仕事・サービスを心がけようと強く思いました。

素敵なお話を共有して頂きありがとうございます。